ペットボトルのキャップを開ける、洗濯バサミをつまむ、ビンのフタを開けるといった動作で、親指のつけ根が痛くなることはありませんか?

それは親指の付け根の関節の軟骨がすり減ったり、骨が変形する母指CM関節症かもしれません。母指CM関節症では、関節の亜脱臼や関節部の変形した骨のトゲによって、親指のつけ根がでっぱってきます。

親指は動かせる範囲が広く、つまむ・握るなどの動作で中心となる指ですので、負担がかかりやすく、変形が起こりやすいと考えられます。
変形は利き手に発生しそうですが、実はそうではなく両方の親指や逆に利き手ではない親指に変形が進行してきたりします。それはなぜでしょう。
母指CM関節症は更年期ごろから多く見られるようになります。
更年期においては女性ホルモン「エストロゲン」が減少し、様々な更年期症状を起こします。エストロゲンには骨や腱の保護作用があることが分かっており、エストロゲンの急激な現象は指の腫れや痛み、変形などさまざまなトラブルの要因の一つと考えられています。更年期の指の変形でよく知られているのが第1関節の変形をきたすヘバーデン結節ですが、その発症時期にはすでに親指の付け根の関節(母指CM関節)の変形も同時に始まっているのです。
治療1 エクオール摂取
こういった母指CM関節症を中心とした手の痛みやヘバーデン結節などに対して、当院では、まずエクオールの摂取をお勧めしています。
エクオールは大豆イソフラボンの代謝過程で産生されるもので、女性ホルモン「エストロゲン」と分子構造が似ているため、体内ではエストロゲンと似た作用を発揮します。

出典:日女性医会誌 2018;25:307-311より改変
提供:四谷メディカルキューブ 手の外科・マイクロサージャリーセンター
エクオールサプリメントを3ヶ月間摂取した人の手の動きと痛みについて評価した研究があり、ほぼ60%の方で改善が得られたとの結果が手外科学会で報告されています
。母指CM関節症やヘバーデン結節など、手の変形性関節症の予防につながるようなものはこれまでありませんでした。まだ長期成績は出ていませんが、エクオールサプリメントは手指関節症状の予防効果も含めて期待出来るのではないかと思います。
治療2 CMバンドサポーター、ヒアルロン酸注射なども有効です。
母指CM関節症は関節周囲の靭帯のゆるみが原因で関節が不安定となり、軟骨の摩耗、関節の変形、関節の亜脱臼が生じます。そこで、CMバンドはCM関節部を押さえつけるようして、関節部をできるかぎり元の位置に戻し、親指の動きを制限するものが有効です。
水にぬれてもよいタイプ、布製のものなどあります。


日中できる限りの時間装着して、CM関節への負担を減らすことがポイントです。
当院では、日中の装着をまず3か月間続けていただくようにお話しています。
次にCM関節部へのヒアルロン酸関節注射についてです。
CM関節部が痛くて注射を行う場合には、一般に整形外科ではステロイド注射を行っています。しかし、ステロイド注射を頻回に行うのは勧められません。ステロイドの副作用で関節周囲の骨が弱くなり、余計に関節変形が進みます。また、糖尿病・コレステロールの値にも悪影響を及ぼします。
そこで、CM関節症に対しての注射として、よく膝痛に使われるのと同様にヒアルロン酸注射が勧められます。膝関節に行われるのと同様にまず5回程度、関節注射します。
CM関節は小さな関節ですので、関節に針を挿入するのが難しいのと、関節内の容量が小さく注入時に痛みが強いなどの問題点があります。
初期から中等度のCM関節症の方には、CMバンドや注射、リハビリなどの治療を複合的に組み合わせてなんとか障害を克服していくことがポイントです。
治療3 手術
痛みがなかなか取れなくて困っている方、生活上支障の大きい方に対しては、母指CM関節に対しての手術も行っています。手術には大きく2つの方法があります。関節固定と人工靭帯を使った関節形成手術です。
手術はその方の生活様式に合わせて方法が決まってきます。

関節固定手術
関節固定手術では傷んだ関節部分を削って、中手骨と大菱形骨をプレートを使用して固定します。しっかりと痛みが取れて強く力を入れられるようになりますが、指の動きが若干落ちる欠点があります。

関節形成手術
関節形成手術では、CM関節の土台となっている大菱形骨を切除したうえ、人工靱帯で第1中手骨を吊り上げます。手術後につまむ力が正常と比較すると低下する問題点がありますが、女性の方で細かい動きを希望する方に適した手術方法です。
いずれにしましても、年のせい・使い過ぎ・どうしようもないと言われてあきらめてはいけません。まずは気になったら早めに当院へ受診することをお勧めします。